IT現場の2007年問題
2006-01-19
団塊の世代の退職がもたらす危機的状況は、2007年問題(あるいは全員が退職してしまう2010年問題)と呼ばれています。
ITの世界には、2000年問題(Y2K問題)というのもありました。
Y2K問題はプログラム内部の技術的要因に根ざしていましたが、今回の2007年問題は「組織内部における技術継承の断絶」という、言わば「人の問題」です。
人の問題とは何でしょう。
古くからあるシステム(レガシーシステムと呼ばれます)を扱える団塊の世代の技術者が、IT技術の現場から離れることが問題なのです。
コンピュータといえば誰もがメインフレームの大型機を思い描いていた時代、世の中にコンピュータ専門の技術者はごく僅かしかおらず、彼らでさえ学校で学んだことはコンピュータそのものではなかったはずです。彼らは他の工学技術をしっかりと身に付けた上で、たまたまコンピュータを扱う部門、部署に就いたわけです。
そうした彼らはビジネスの現場を充分に知り、コンピュータを一切使わずに様々なことができていた時代に、当時のコンピュータの恩恵をビジネスの現場に活かすべく彼ら自身の手によっていくつもの重要なシステムを構築してきました。
レガシーシステムには彼らのノウハウがぎっしりと詰まっているために、簡単に新しいシステム(パソコンやインターネットを中核としたシステム)に交換することはできません。レガシーシステムは今でも多くの組織・企業内部で現役で稼動しています。
ところが、彼らよりも若い世代の(私も含めた)IT技術者の多くは、現場を経験せずに、いきなりコンピュータを扱うことそのものが仕事でした。コンピュータは最初から存在するもの、利用すべきものだったわけです。
そうした若い技術者とレガシーシステムを構築してきた年輩の技術者との間には、自然と棲み分け/業務分担が発生しました。
「あの古いシステムのことは、**部長にお任せ」
ただでさえ、秒進分歩と言われている環境の中にいて、いつも問題無く動作している古いシステムのことなんて構ってはいられません。だって、いつもちゃんと動いているのです。たまに何らかの問題が起きても私たちが古い仕様書と格闘するよりもずっと短時間で、彼らは問題を解決してくれるのです。触らぬ神にたたりなし、これが本音です。
Y2K問題では、多くの若い技術者がレガシーシステムとの戦いを余儀無くされたものの、日付け処理部分だけに注力すれば済みました。システム全体の動作を考慮する必要はありませんでした。
でも気持ちのどこかに、いざとなったら「**部長に頼み込めばいいや」という安心感があったのも事実です。
日本のコンピュータ黎明期にシステムを構築してきた人々がいなくなってしまいます。
いっそのことすべて新しいシステムに置き換えるべきか、古い技術を学びなおす機会なのか、選択肢は限られているのですが答えは見つかっていません。
伊勢神宮が20年に一度建て直されるのは、清浄な社殿を保つことが目的なのでしょう。しかしその裏には古式宮大工建築技術の継承という面もあるそうです。
先人の智恵の偉大さ/洞察の深さを感ぜずにはいられません。